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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)172号 判決 1976年4月28日

原告

理研建材有限会社

右代表者

日高清治

右訴訟代理人

佐藤正昭

外一名

被告

特許庁長官

片山石郎

右指定代理人

房村精一

外四名

被告補助参加人

中博光

右訴訟代理人

大場正成

外二名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

(一)  被告が昭和四六年六月四日付でした昭和四六年一月二五日発行の特許公報昭四六―七六(五―七一〇)のうち特許出願公告昭四六―三〇二九号公報を訂正するとの処分及び被告が昭和四六年一月二五日付でした昭和四六―三〇二九号の特許出願公告を取り消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告

(一)  本案前の申立てとして

主文同旨の判決を求める。

(二)  本案について

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決を求める。

第二  請求原因

一、取消しを求める行政処分の存在と本訴に至つた経緯

(一)  特許出願人(被告補助参加人)中博光は、昭和三九年九月一〇日、特許出願番号昭三九―五一〇四〇号をもつて発明の名称・天井点検口、発明の数二個の特許出願(以下「本件出願」という。)をしたところ、特許庁審査官から昭和四四年三月二六日付拒絶理由通知書をもつて拒絶理由通知を受け、昭和四五年五月四日付手続補正書(以下「本件補正書」という。)をもつて発明の数四個に補正し(以下「本件補正」という。)、特許庁審査官は同年九月二二日本件補正前の発明の数二個の特許出願について出願公告をすべき旨の決定(以下「本件出願公告決定」という。)をし、被告特許庁長官は同日同決定謄本を送達したうえ、昭和四六年一月二五日昭四六―三〇二九号をもつて別添特許公報(以下「本件公報」という。)のとおり特許出願公告(以下「本件出願公告」という。)をし、その後特許庁出願課から昭和四六年五月一七日公報訂正伺いがされ、審査官熊代憲子名義で本件補正書を採用して本件公報を訂正すべき旨の決裁がされ、被告は同年六月四日別添のとおり本件公報を訂正した(以下「本件公報の訂正」といい、その公報を「本件訂正公報」という。)。

(二)  しかしながら、本件出願公告及び本件公報の訂正は、後述のとおり違法であつて取消しを免れないものである。

そこで、原告は、被告に対し、昭和四六年一二月四日、本件出願公告及び本件公報の訂正について異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をしたが、被告は、昭和四七年一〇月一三日、本件異議申立ては行政不服審査法第四五条に定める期間経過後にされた不適法なものであるとの理由がこれを却下し、同却下決定は同年一一月一八日原告に送達された。

よつて、原告は、本件出願公告及び本件公報の訂正の取消しを求め、本訴に及んだ。<後略>

理由

特許法又は特許法に基づく命令の規定による処分(同法第一九五条の三に規定する処分を除く。)の取消しの訴えは、当該処分についての異議申立又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ、提起することができない(特許法第一八四条の二)ところ、異議申立て又は審査請求が不適法として却下され、右却下決定が違法でない場合には、右原処分の取消しを求める訴えは右規定にいう決定又は裁決を経たものとはいえず、その訴えは不適法として却下を免れない。

原告が被告に対し昭和四六年一二月四日本件出願公告及び本件公報の訂正について異議申立てをしたところ、被告が右異議申立ては異議申立期間経過後にされた不適法なものであるとして、決定でこれを却下したことについては当事者間に争いがない。

原告がその取消しを求める本件出願公告及び本件公報の訂正は、いずれも公告という形で行われたものであることについて当事者間に争いがなく、その各公告が形式的に瑕疵を帯びているものであるとの立証はない。

原告は、そもそも出願公告の内容を訂正すること自体法律の規定に基づかない違法なものであるから、本件公報の訂正はそれが公示されたとしてもそれによつて原告が処分のあつたことを知つたものとする効果をもたせることはできないとの趣旨の主張をする。なるほど、出願公告の内容の訂正は、許される補正(特許法第六四条等)に基づく場合の外はこれをなし得ることの規定を特許法中に見出すことはできないが、しかしそれだからといつて出願公告の内容はこれを訂正することはできず、訂正すべき場合は必らず前の出願公告を撤回して新たに出願公告をし直さなければならないものとすることはできない。有効な補正による訂正ではなく、出願公告をすべき者(特許庁長官)の過誤で誤つた出願公告がなされるということもあり得、そのような場合出願公告を訂正しても関係人の権利義務になんらの影響も及ぼさないような訂正までいちいち前の出願公告を撤回して新たに出願公告し直さなければならないとすると、そのこと自体によつて反つて関係人の権利が変動を受け(例えば仮保護の権利は新しくされた出願公告の時からでなければ生じないことになる。)妥当を欠く結果になるからである。そうすると、そのような場合の出願公告内容の訂正は、特許法中にこれをなし得る旨の規定がないにもかかわらず、これをなし得るものとしなければならない。しかしてその訂正は、明細書が公告されると同様の方法で、すなわち特許公報に掲載して、公告されるべきものである。右のとおりであるから、そのようにしてなされた出願公告内容の訂正(特許公報の訂正)が、その訂正内容どおりの効力を生ずるか否かは、実体的な問題として捉えるべきであり、訂正内容どおりの効力を生ずるものと認めることができない、すなわち無効の訂正であるからといつて、そのことから直ちにその訂正の公告が形式的な瑕疵を帯びるもの、形式的に違法なものであるとすることはできない。しかして本件公報の訂正は本件訂正公報によつて本件出願公告と同様の形式で、すなわち特許公報に掲載して、公告されたものであるから、公告という点においては、本件出願公告と同じ効果をもつているものというべきである。

以上のとおりであるから、原告の前記主張は結局これを採ることができないものであるといわなければならない。

ところで、本件各処分(本件出願公告、本件公報の訂正)に対する異議申立は右各処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内にしなければならない(行政不服審査法第四五条)ものであるところ、本件処分のように公告という形式でされる処分は、その公告が適法にされた場合は、公告という制度の性質上、その公告がされたのを現実に知つていたかあるいは知らなかつたかにかかわらず、その処分に対する異議申立てについて、その公告の翌日から起算されるということになる。そうすると原告の異議申立ては異議申立期間経過後にされた不適法なものであるとしてこれを却下した被告の決定は適法であるといわなければならない。

以上説明のとおり、原告の本件訴えは異議申立てに対する決定を経たものであるといえないから、不適法である。よつて、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 牧野利秋 清永利亮)

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